ヤサオトコ

 郁は、部屋に帰りながら真剣に考えていた。


 (このまま、晃司を地べたなんかに、到底寝かせられない。布団の上に寝かせて上げたい。そうだ。今からビジネスホテルにでも行こう。こんな時の為に、へそくりはあるのだから。そうだ。そうしょう)


 栗崎が部屋に戻り、ダンボール紙の上に寝ようとした。


 「待って!晃司。今から、ホテルに行こう」
 「ええ、・・・ホテルに・・・」


 栗崎が驚いた顔をした。


 「ねえ、そうしよう」
 「そんな、・・お金・・・」


 「大丈夫。私、へそくりたくさん持っているから」
 「・・悪いよ」


 「大丈夫ってば。私、こう見えてもへそくり貴族だから。さあ、晃司。行くよ」


 郁がバッグ二つを急いで手に持って、もう一方の手で、栗崎の手を力強く引張った。
 栗崎が、引張られるままに郁の後に従った。







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