ヤサオトコ
二人は、地下鉄肥後橋駅の近くのビジネスホテルに入った。
運良く空室が有り、二人は無事ビジネスホテルにチェックインをする事が出来た。
郁が取ったのは、予算の関係上、シングルの一室。
栗崎は部屋に入るなり、ベッドの上に倒れるようにして眠りに就いた。何と、獣のような高いびきまでして。
慣れないホームレス生活で、栗崎は睡眠不足が続いていた。その上に、食中り。
栗崎が、睡魔の格好の餌食になったとしても不思議ではない。
郁はベッドの横に座り、栗崎の寝顔を見詰めていた。
(晃司の為なら何でもするわ。だって、あなたは奈落の底で巡り合った、唯一の希望だから)
郁が唇を少し噛んだ。
(晃司。あなたは私にとっては、ただひとりの男だからね。星の数ほど男はいても、私の男は、晃司あなた、ただ一人だけよ)
「本当なんだから・・・」
郁の口から、思わず言葉が洩れた。
(へそくりだって、零になったっていい。たとえ、この体だって、売ってもいいのよ。今まで、人の物は盗んでも、体だけは売らなかった。私のプライドかな。でも、そんなプライドなんか喜んで捨ててやる。晃司の為なら何でもするわ。うううん。何でも、喜んで出来るわ。あなたが命を掛けて私を守ってくれたから、私も命を掛けてあなたを守るわ。晃司、それを覚えていてね)
郁は、晃司の寝顔に無言で語り掛けた。