ヤサオトコ

 「何が」


 栗崎は業と惚けた。


 「だって、晃司は・・・何もしないんだから。もう何日も夜を共にしているのに・・・」
 「まだ、会ってから何日も経っていないよ」


 栗崎が郁を見ると、郁の瞳に大粒の涙が光っていた。


 「私ってそんなに魅力が無いの?」
 「そんな事ないよ」


 「何故?」
 「君を大切に思っているから」


 「嫌い。そんな愛され方なんか。大切に思っているなら態度で示して欲しい」
 「わかったよ」


 栗崎は、郁の瞳に光る大粒の涙を、自分の口で優しく拭った。
 その時、郁の唇が、素早く栗崎の唇を捉えた。


 二人は、激しく激しく求め合った。
 郁との口付けは、今まで栗崎が交わしたどの女性よりも、まるで違っていた。
それは、蜜のように、とろけるように、甘かった。



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