ヤサオトコ

 福島駅近くの自動販売機の下に、硬貨らしき物が輝いている。
 栗崎は、しゃがみ込んで自動販売機の下を覗き、にたっと笑みを浮かべた。


 「100円玉かな」


 自動販売機の下を覗きながら、栗崎が独り言を呟いた。
 栗崎は自転車の前のカゴから、小さめの箒を取り出した。それは、先日、ゴミ捨て場で拾った、先のちびった薄汚い箒だった。


 箒を自動販売機の下に入れ、慣れた手付きで硬貨を手前に手繰り寄せた。
 栗崎が硬貨を手に取った。何と、硬貨は、燦然と光り輝く大枚500円玉だった。


 自動販売機の下に落ちている硬貨は、大概が10円、50円、100円だった。
 500玉にお目に掛かったのは、栗崎がこの商売をして以来、初めてであった。


 「こいつは朝から、縁起がいいわい」


 栗崎の口から、思わず調子のいい言葉が洩れた。






 
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