ヤサオトコ

 栗崎はその後も、いつものコースで自動販売機を回り、空き缶を集めた。
 その日は、自宅に帰るまで鼻歌が次から次と、口から知らず知らずに出た。


 栗崎が堤防の上に自転車を止め、ダンボール紙で出来た自宅を見詰めた。
 自宅の外で、郁がしゃがみ込んでいる。


 栗崎が目を凝らして見ると、郁が苦しそうに吐いている様子。
 郁の具合が悪いのかと、栗崎は慌てて堤防の下まで走って行った。


 「郁、大丈夫か」


 栗崎が郁に声を掛けた。


 ぺぇぺぇッ。


 郁は、下を向いて無言で河原に唾を吐いている。

 「体でも悪いのか?」

 栗崎が、郁の顔を覗いて心配そうに尋ねた。
 郁が顔を上げた。
 郁の顔は、いつもより少し蒼かった。


 「うううん。あれみたい」


 郁が作り笑いをして呟いた。






 
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