ヤサオトコ
「あれって」
栗崎は、あれの意味が摑めない。
「出来たみたい」
郁が答えた。
郁には、妊娠の経験があった。
施設を飛び出してパチンコ屋で働いていた頃、そこの同僚と深い関係になった。
その時、子供はおろした。が、子供を身篭った時の感覚を、郁は今でもはっきりと体で覚えていた。
「えっ、出来た。まさか・・子供が・・・」
栗崎は、血相を変えて驚いた。
郁との子供は欲しかった。しかし、ダンボールハウスで暮らす今の環境では、余りにも無理があった。
「私、生むよ」
郁がぽつりと、妙に真剣な顔をして言った。
「ええっっ・・・」
栗崎は郁の言葉が信じられなかった。