ヤサオトコ
「栗崎さん、良かったら今度、私とデートしませんか」
野乃絵が、いきなり栗崎にデートを申し込んだ。
「えっ、デートですか」
「お嫌ですか」
「それは・・・」
「これっ、栗原さんを困らせてからに。無理なお願いせんとき」
「栗崎さん、無理なお願いですか」
「いや、そう言う訳でも・・・」
栗崎は乗り気で無かったが、断る勇気も無かった。
野乃絵は携帯の番号とメールアドレスをメモに書き、それを栗崎に渡した。
「ほんまに強引な子やで。栗崎さん、ご免やで」
房江が栗崎に謝った。
「いいえ・・・」
「じゃ、連絡を楽しみにしています」
「あっ、はい・・・」
(メモなんか貰わなければ良かった)
(でも、母親には恩義がある。無下に断る事なんか出来ないじゃないか)
栗崎は自分の気の弱さを呪いたかった。
鮮やかに色付いた蛸が踊っている。
栗崎には絵の中の蛸が、笑っているように思えた。