ヤサオトコ

 橋爪沙幸は、やり手の女性部長。
 38歳。独身。
 宣伝部のドン。


 彼女の意思が、仕事の決定を大きく左右した。


 「原ちゃん、ちょっと」
 「はい、部長。なんでっしゃろか」


 いんぎんな物腰で田原が橋爪に近寄った。
 栗崎は、エレベーターの前で田原を待っている。


 「原ちゃん、実は頼みがあるねんけど」

 沙幸が田原に接近した。


 「部長の頼みなら、例え火の中、水の中、何でもお引き受けしまっせ。遠慮無く言っておくなはれ」

 田原がいつもの関西弁でオーバーに呟いた。


 「頼みと言うのはな。一席設けて欲しいのや」


 「何や、そんな事でっか。た易い事ですわ」
 「もう少し近付いてくれるか」


 沙幸は田原の耳元に小さく呟いた。






< 76 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop