ヤサオトコ

 それから、栗崎は曽根崎界隈の二軒のスナックへ。


 あっちにふらふら、こっちにふらふら。
 横にふらふら、前後にふらふら。


 千鳥足の栗崎が、何とか阪神梅田駅に辿り着いた。


 電車が出る合図の音が、群集を急かしている。
 栗崎が、ふらふらしながら急行電車に滑り込む。


 空いている座席に座ろうとして、栗崎がずるずると滑り落ちた。
 座席に持たれて足を投げ出して座る、見っとも無い男。それが、栗崎だった。


 周りの乗客が、軽蔑した視線を注ぐ。
 すぐ前から、あっちの方まで。


 「よっぱらいよ。みっともないわね」


 「ああ酒臭い。向こうの車両に行け!」


 乗客の目がそう語っているようだ。
 その時、電車が発車した。







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