ヤサオトコ

 「お母さん」


 「お母さ~ん」


 栗崎が大声を張り上げた。


 「お母さんてば・・・」

 
 「僕がこんなに・・・呼んでいるのに・・・」




 「こらっ、房江。可愛い息子の・・・お帰りだ。出て来い!」



 栗崎はふらふらふらふらしている。
 栗崎が二階を見上げて房江を呼んだ。


 応答は無い。


 栗崎は右にふらり、左にふらり。
 足元が定まらない。


 「これだけ呼んでも・・・ウイッ、出てこない」


 「ようし、僕にも覚悟があるぞ。・・・止めるなら、今のうちですよ・・・ウイッ」



 「出てこないなら・・やるからね」


 栗崎が、背広の上着を脱いで上に放り上げた。







< 88 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop