そして少女は剣になった



 それ程、全員が同じように採用試験への挑戦権を持っているが、内容が余りにも無理難題の連続の為、人数は世界中から百人にまで絞られた。


『開始は笛の合図とする。尚、全滅の場合この試験は強制終了となり、死体は手筈通り処分する』


 異様な雰囲気に包まれた室内に響き渡るのは、壁に取り付けられたスピーカーより発せられる声。低めのしわがれた、男性の声だった。


 下で静聴していた人々は、全員がこの異常を受け入れている人間である。もしくは、諦めた人間か。


 部屋の中心で一切の微動もなく佇む、黒コートで顔を隠す少女も、その一人だ。
 ゆとりのあるコート。圧底のブーツ辺りまで覆っている。十六歳程度の華奢な外見に余るほど、袖は指先まで覆い隠していた。


 全員が各々の武器を手配されている。各人が持参した武器でも構わないが、飛び道具となる獲物は無い。上で睨みを利かす軍人達へ、不意をつく攻撃を避けるためだろう。


 黒コートの少女。彼女の選択した武器は鉄パイプ。少女の事を近くで注目している人間から、命懸けの殺し合いに申し訳程度の打撃武器とは、一体何をふざけているのかと思われても仕方がない。


『それでは最終試験。バトルロワイヤルを開始する』


 短いホイッスル。弾かれたように室内で怒号が飛び交う――


 はずだった。
 刹那の警戒。不可視の力で押さえつけられたように、室内を巡る、一瞬のみの怒号が止んだ。全員の視線がただ一人に集中する。
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