そして少女は剣になった
漆黒の――少女。
総勢百名分の狂気をねじ伏せ、彼女は鉄の筒を高々と掲げていた。
一つのオブジェクトと化していた黒コートの少女が、戦闘開始の合図をきっかけに動きだしたのだ。
――それがただの人間ならば、ほとんどの者は意に介することは無かっただろう。むしろ絶好の殺害対象として襲ったはずだ。しかし、彼女はそれをさせない。圧倒的圧力。
そして、鉄パイプが高く舞い上がった。悠々と回転運動を繰り返す物体に、少女以外の人間は目が釘付けになる。
やがて――鉄の筒は落下し、コンクリートを叩いた。不快で無骨な金属音を奏で、反響音が耳に残る。
刹那。
少女の袖口が鋭く光った。
次に、荒々しくコンクリート上で舞う。鬼神の如き乱舞によって巻き起こされた暴風が、百人の居る空間を駆け抜ける。
『――!?』
全員の顔が驚愕に歪んだ。
知らぬ間に深く走っていた首筋の傷。それがあの少女一人によって成された事だと悟ったのは、力の入らなくなった膝から崩れ落ちた時だった。
綺麗すぎる傷口。どれも傷を負った箇所は首筋のみ。機械的な『斬撃』。
明らかに、人間のそれを逸脱していた。
次々に、つられるように伏していく。その誰もが斬られた頸動脈を手で押さえ、それでも庇いきれないほどの傷を負った首から、致死量の血液が惜しみなく流れていった。