【企】微熱を下げて(挿絵付)
「高畑、書類の確認頼む」
隣の席から手渡される大量の書類に、頭痛がさらにひどくなった。
……ちょっとは気遣えっての。
「な、なんだよ」
「……別に」
心の内が顔に出ていたのか、私を見た隣の席の男・田村は酷く怯えた様子だ。
田村は私が昨日傷心したということも、やけ酒を呑んだことも知らないし、その原因が自分だということにも気付いていない。
昨日、朝礼で田村の結婚が発表された。相手は入社三年目の可愛らしい子。
同期の私は五年も田村と一緒にいながら、二人が付き合っていることを知らなかった。
五年も側にいたのに……三年一緒に仕事をした彼女の方が、私より数倍近い存在となる。
私だって、田村のことが好きだったのに。
同期という戦友のような関係を崩したくなくて、ずっと言えなかっただけで、好きだったのに。
「……」
田村は私のことを、この五年間ずっと、ただの同期としか思っていなかったようだ。
そう思うと無性に腹が立ってくる。
「だから、なんなんだよっ」
「なんでもないわよ」
わかってる、気持ちを伝えなかった自分が悪いって。
しかも今は仕事中。私情を挟むなんて、私らしくない。
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