【企】微熱を下げて(挿絵付)
また、頭が痛くなってきた……。
指先でこめかみをほぐしてみるがあまり効果はない。
早退しようか、でも大量の仕事がデスクに積み上げられている。
しかも帰って一人になれば、嫌でも田村のことを考えてしまいそう。
どうしようかと迷っていると、背後から人影が近付いてきた。
「独り身の高畑は、結婚が決まった田村に嫉妬してんだよ」
「し、主任!」
のらりとした風貌でやってくるのは営業課の主任。
いつもやる気なさそうに見え、面倒なことは部下に頼む人。
しかし部下からの信頼は厚く、営業成績もいいので、やるときはやるのかもしれない。
「田村、この資料を今日中にまとめてほしいんだが」
「え、僕がですか?」
田村は気まずそうな顔をした。彼女と約束があるのだろう。
普通の資料作成なら定時までに終わると思うけど、主任が持ってきた仕事だから……“普通”なわけがない。
「主任、私がやりますよ」
どうせ定時で終わって家に帰っても、今夜もやけ酒を呑んでしまいそうだ。
それならいっそ……と思ったけれど。