すずらんとナイフ

メールアドレスを託した日の夜、すずは落ち着かない気持ちで、自室でテレビを見ていた。


(ああ…もうすぐ10時半になる…
やっぱりダメか…迷惑だったかな…)


すずは溜息をついた。


(大沢さんだって立場あるもんね…
馬鹿なことしちゃったかな…?)


諦めかけたその時、スマホが鳴った。

慌ててスマホを手に取る。

見知らぬアドレスからメールが来ていた。

祈るような気持ちでメールを開くとタイトルに
[大沢勇希です]とあった。



(うわあ!)

すずの心臓は大きく波打った。

本文を読む。


[名刺ありがとう。俺はメールが苦手だから、残念だけれど、メル友にはなれないよ。
でも、三浦さんのこともっと知りたいから、今度、食事に行こうよ。
いつなら大丈夫?]


『…やったあ!』


すずは叫び、ベッドの上に倒れ込んだ。








恵はプラスチックの茶碗に入った茶を、ズズッと啜った。


「またまたラブラブエピソードありがとう。ヘェ〜…じゃ、あのビデオ男と別れて、ほんと正解だったね」


恵の言葉に、
すずは飯粒をぷっと吹いた。

「やめてよ…」

恵を睨みながら、すずは久しぶりに
あいつのことを思い出した。


< 15 / 62 >

この作品をシェア

pagetop