すずらんとナイフ


前彼とは、勇希と付き合う半年前に別れた。

久しぶりに出来た彼だったけれど、わずか4カ月の交際期間で終わった。


合コンで意気投合して付き合い始めた前彼と、デートでファミレスで食事している時の事だった。


『あのさあ』

前彼はハンバーグステーキを食べながら、とんでもない事を言い出した。


『この後さあ、ホテル行くじゃん?』

『……そうだね』

『すずとベッドでHしてるとこ、ビデオ撮影したいんだけど』

『……えぇっ!?』


あまりの驚きに食べていたドリアが変なところに入り、すずは思い切りむせた。


『最近、マンネリだしさー』

前彼は言った。

『……』

すずは言葉が出なかった。

(マンネリって〜まだそんなにしてないじゃない)


『すずって体、柔らかいから、
いいかなって思ってさ』


(なにそれ?どういう意味?
わけ分からん。

真面目なSEだと思ったのに、このままじゃ何をされるかわかったもんじゃない……リベンジポルノとか)


すっかり冷めてしまった。

今夜は、一緒に過ごすつもりで来たけれど、店を出たすずは
『急に生理になったから』
と言ってさっさと帰った。


帰りの電車の中で、
すずはつくづく後悔した。


愛じゃなかったんだ……お互いに。
恋に恋するなんて、中学生レベル。

こんなんじゃ、一生幸せな結婚など出来っこない。

真剣に、心から愛せる人を探そう。
そう思える人と出逢うまで、
誰とも付き合わない。


26歳だったすずは、夜空に誓ったのだった。




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