すずらんとナイフ
「なんで?ダイエット?」
「違うよ。ラウンジ」
恵はストローを咥え、ちゅっとジュースを吸う。
すずは目を丸くした。
「えっ!?ラウンジ辞めちゃうの?
なんで?」
恵は俯いて言った。
「実は、子どもが出来たの」
「えっ!?」
「だから、結婚することになったの。
ほんと急で大変なんだけど…」
すずは思わず、うわあ!と
大声を上げた。
「すごーい!良かったね!
Wおめでたなんだー」
パチパチと拍手した。
すずと同い年の恵は、一つ年上の体育の高校教師の恋人と、彼女が二十歳、彼が大学生の時から付き合っている。
写メを見せてもらったことがあった。
ジャージを着た短髪の彼は、なかなかの好青年だった。
仕事が忙しい彼は恵をほったらかしにすることが多く、恵は『放置プレーがスタンダードだよ』と、よく嘆いていた。
昔から、なぜか恋愛が長続きしないすずは、7年間も同じ男と付き合う恵が羨ましかった。
『すずは経験豊富だよね』
恵はよくそう言った。
恵からすれば、そうかもしれないけど、世間からしたらそんなことはない。
(恵が結婚かあ……)
すずは焦ってしまう。
勇希とは、絶対結婚したいと思う。
恵は照れ臭いのか、少し不貞腐れた風に言った。
「お腹が目立たないうちに式を挙げたいから来週でラウンジを辞める。理香さんには週明けに打ち明けるんだ」
「本当におめでとう〜
お式に呼んでね!」
すずは恵の幸せに胸躍らせながらも、ラウンジに勤めてから3年の間、毎日一緒にいる親友が辞めてしまう寂しさで涙ぐんでしまった。