すずらんとナイフ


恵が辞めてしまったから、ラウンジのサブリーダーはすず一人だけになってしまった。


繁忙期を過ぎた午後のラウンジには、
打ち合わせの客が来るまばらに訪れる
程度で、コンパニオンは2人しか置かない。

恵の代わりに加藤史歩が入るようになり、すずと一緒にいる時間が増えた。


最初こそ、おどおどしていた史歩だったが、この頃はすっかり要領よくやれるようになった。


渡辺は、すずと史歩の前で、
『加藤さんには、そのうちサブリーダーになってもらうつもりだから』と言った。

『本当ですかあ?』


渡辺の言葉に史歩は、
嬉しそうに笑った。


彼は、高校の同窓生であるすずと史歩が、気心のしれた間柄であると思い込んでいるふしがあった。


すずは、今ひとつ、
史歩が好きになれなかった。
相容れなかった。


史歩は、人によって態度が違う。


理香や渡辺にはやたら愛想がいいくせに、大人しいタイプの人や不器量な人には馬鹿にしたような態度をとったり、冷たくする。


地味で面倒臭いことは、さりげなく人に押し付けることに、すずは気が付いていた。

史歩はすずには、明るく話しかけてきた。

実害はない。

史歩でも話し相手になる。

すずは恵がいなくなり、寂しかった。

だから、普通に笑顔で接していた。




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