すずらんとナイフ
夏の日の事件
すずは思う。
(史歩は二年の夏で高校を中退したあと、どういう人生を歩んできたんだろう?)
午後は二人きりで仕事しているのだから、聞くチャンスはいくらでもあった。
にも関わらず、訊けなかった。
史歩の方からも何も言わなかった。
高校時代の話は、一切しなかった。
史歩が突然高校を辞めた理由を、当時、すずは噂で聞いていた。
高二の夏休みのこと。
演劇部が学校の教室を使い、一泊の予定で夏の合宿をした。
事件が起きたのは、その夜だった。
家庭科室で夕食のカレーを調理中、男子生徒二人が喧嘩を始め、刃傷沙汰を起こしてしまった。
同じクラスにはなったことないが、その子たちをすずも知っていた。
被害者は川霧昌彦、加害者は高橋昇だ。
高橋は突然、備品の包丁で背後から川霧を切りつけた。
二人とも、ごく普通の男子生徒だった。
原因は史歩だった。