すずらんとナイフ


太陽の光にキラキラと輝く海を見ていると、すずは心から気持ちが安らいだ。

空気は澄み、海の向こうに房総半島がうすらと影のように見えた。


勇希はさっきからずっとスマートフォンをいじっていた。

海風がすずの頬を撫でていく。


「ハア…気持ちいいよねえ」


すずがいうと勇希はスマートフォンをショルダーバッグの中にしまった。


「沖縄はもう、
桜がさいてるんだって」

勇希は唐突に言った。


「そうなんだー?
いいなあ、沖縄。子供の頃、一度だけ家族旅行でいった。海、綺麗だよね」


「俺は沖縄って行ったことないんだよ。サイパンならある。
学生の時。男四人で」

「男だけで?何しにいったの?」

「んー、いろいろ!」

勇希はそう言って、あの悪戯っぽい笑顔を見せた。


勇希の濃い眉毛、二重まぶたのはっきりとした目。

すこし鷲鼻の鼻。

人より大きめな耳は、半分髪の毛に隠れている。
流行りの無造作なヘアスタイルだ。

骨張った長い指の手。


勇希を見ていると、この人は私の宝物だとすずは思う。


二人のそばにリードを付けた白いロングコートチワワが近付いてきた。

チワワはすずの足元の匂いを嗅いだ。


「可愛いなあ」

すずがのんびり言った。


「…すず、旅行行く?」


勇希がすずのほうへ体を向けて言った。

「え?」

「俺、二泊三日だったら、土日挟んで休暇取れるよ。何処か行かないか?」


すずは嬉しくてうわあ、と叫んだ。

「行く行く!」

子どもみたいに体をくねらせた。


「沖縄かグアム…ハワイはちょっと無理だけど。夜、帰ってからネットでしらべようぜ」


(旅行……!勇希と…!
アドレナリン全開だあ!)


すずは、大の苦手の絶叫コースターも今なら乗れる気がした。






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