すずらんとナイフ


「キャッ!」

思わず、すずは小さく叫び、ノブオの手を引っ張ってその場を離れた。


「見た?」

ノブオが聞くのに、すずはうなづいた。


「うん…びっくりしちゃった…」


「まじ、面白え。あれ、三組の川霧って奴と加藤史歩だぜ。
加藤史歩って、一組の高橋昇と付き合ってたんじゃなかったっけ?
やっべえよ、別れたのかなあ?」

「さあ…?」


加藤史歩とは一年の時、同じクラスだったが、ほとんど喋ったことがない。

スタイルの良い瓜実顔の綺麗な子だ。


教室で彼女は、いつも一人でいた。

演劇部に所属していて、部内の男の子と次々に付き合ってると聞いたことがあった。


史歩に興味なかった。

こんなところで、あんなことするなんて、同性として呆れた。


やべえよ、を連発しながら、やたら嬉しそうなノブオにも呆れた。


次の日、お調子者のノブオは皆に
「放課後、川霧と史歩が廊下でヤってた」と楽しげに吹聴して回った。

…証人は、三浦すずだと付け足して。


高橋昇が川霧を刺したのは、それから
10日後のことだ。






『すず…あんたが面白おかしく言いふらしたせいで…』



薄暗いロッカールーム。

すずには史歩の顔が般若のように見え、捕らわれたかのように立ち尽くしていた。



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