すずらんとナイフ

熱っぽい気がした。

自室のベッドに腰掛け、すずは体温計を脇に挟む。


(熱があったら、どうしよう…)


ラウンジは徐々に来場者が増えてきていて、忙しかった。

今日は掻き入れ時の金曜日。
突発で休む事などできない。


これから日毎に客足が増え、ゴールデン
ウイークにピークを迎える。

それに伴ってコンパニオンも増員された。

もう、史歩と二人きりということはなかった。


あれ以来、すずと史歩は完全に険悪になり、それに気づいた理香はすずに
『なにかあったの?』と訊いた。


『合わないんです』


すずは素っ気なく答えた。


理香はサブリーダーのすずを優先し、シフトに史歩を入れる回数を減らした。



喉が痛くて時々、咳が出る。
熱はなかった。


(勇希の風邪が移っちゃった…)


ゴールデンウイークに備え、会社の備蓄倉庫から消耗品やコーヒーや茶葉などを持って来なければならなかった。

かなりの量だから、人手も必要だ。


すずは、駅前のコンビニで買ったマスクをして出勤した。

ラウンジではマスクなんかしていたら、接客出来ない。極力咳を我慢するしかない。


今日は15組の来場者が来る予定だ。


来場者リストの中に、営業ニ課の部長と課長の名前とアルファベット表記の会社名が載っていた。



昨日勇希から夜遅くメールがきた。


[明日、部長と一緒にラウンジに行くよ。
アメリカからの客の通訳だよ。
すずの顔見るの楽しみ(^-^)/]


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