すずらんとナイフ
「ゲホゲホ…ゲホ!…はあ…」
ひとしきり咳をし、やっと止まったところで化粧室を出る。
「あっ…!」
ラウンジに続く通路で、勇希とばったりで出くわした。
「おっ…」
勇希が微笑みながら言う。
「すごい咳してたのすずだったんだ。
こっちまで聞こえたよ。大丈夫?」
「なんだか、朝から風邪っぽくって。
勇希の風邪が移ったんだよ。
熱はないんだけどね。やっぱり治りかけの風邪って移りやすいのね」
すずは唇を尖らせる。
「実証されたわけだ。
じゃ、また俺に移していいよ。
今夜にでも、移しにうちにおいでよ」
勇希は片目をつぶってウインクしてみせ、軽く片手をあげてラウンジに戻って行った。
「すずの彼氏…あの人でしょ?」
ふいに後ろから声がした。