すずらんとナイフ
史歩だった。
史歩は口元に薄笑いを浮かべ、言い放った。
「社員と付き合うなんてやるじゃん。
でも、こんなところで、いやらしい会話しないでくれる?気持ち悪いから!」
史歩のこけた頬。歪んだ眉。
荒れた肌…
放課後の学校の廊下で、絡み合う史歩と川霧の残像がすずの頭の中で蘇る。
心が冷えていくのを感じた。
すずはもう、史歩の表情など見ていなかった。そこにあるのは的(まと)だった。
「高橋昇は……」
すずは小首を傾げて言った。
「高橋昇は刺す相手を間違えたよね。
諸悪の根元は誰なのか、わからなかったのかな?学校中の誰もが分かってるのに」
音の響く狭い通路で、すずには自分の
声がオルゴールの音のように聞こえていた。
「高橋昇は川霧じゃなく、史歩を刺せばよかったのよ」
オルゴールは鋭利なナイフに変わる。
大きく振りかざしてひと思いに狙う。
「川霧も史歩を刺しちゃえばよかったのにね!」
言葉のナイフで、すずは史歩を突き刺した。快感だった。
「……」
史歩は目を見開き黙ったまま、動かなくなる。
…うまく心臓を突くことが出来た。
「もう二度と話しかけないで」
すずは小さな笑みを浮かべ、史歩からナイフを引き抜いた。