すずらんとナイフ
「…あのフリーメールのことと関係ある?」
『さあね…それは何とも言えないね。
ただ、宮坂が俺を推したんだ。
独身だからすぐに動けるし、英語も喋れるからいいだろうって。
……中国の奥地だぜ?
英語関係ねーだろが…』
勇希の口調が荒れていた。
「いつ帰れるの?」
『……わかんない。早くて十年後かな。
下手すりゃ定年までかな。
日本でキャリア積みたかったけど、断ることなんて出来ねーし。
結局、誰かが代わりに行かされるんだ。
ま、住めば都と思って、中国で頑張るしかねえな」
「…酔ってる?」
すずは訊いた。
『少しね。一人で飲んでる。
もうそろそろ帰るよ』
「私、そっちに行っていい?」
『……』
勇希はまた沈黙した。
「…ごめんなさい…」
すずは謝り、泣きそうになるのを必死に堪えた。
電話の向こうの勇希が別人に思えた。