すずらんとナイフ
夜の空気が冷たかった。
すずは懐中電灯を持ち、自宅の裏庭に出た。
「あった…」
やはり咲いていた。
すずらんは5月に入ってすぐに咲き始める。
愛らしいすずらんの花畑にしゃがみ込んで、咲いている白い花をすべて摘み取った。
小さなベルの花を引き立たせるために、
何枚かの葉も一緒に。
束にするとそれは可憐なブーケとなった。
「いい匂い…」
すずはすずらんのの清々しい香りを嗅いだ。
(今の私に出来る事は、これくらいだ…)
すずは思った。
すずが幼い頃、母親はすずにすずらんの花を触ることを禁じた。
『すずらんの根には、毒性があるんだよ』
母が言った。
『すずらんを水を入れたコップに挿しておくと、その水は、毒の水になっちゃうんだよ。それを人間が飲むと中毒になって大変なことになるんだよ』と。
(…それならアイスコーヒーでは、どうなるんだろう。
毒のアイスコーヒーになるのかな…?)
すずは考えていた。
『…試そうか?』
勇希の声が聞こえた気がした。
「いいかもね…」
虚ろな心で、すずは答えた。