彼は人魚姫!
海岸沿いをどこまで走っても、しぃの姿は見当たらない。
一生懸命、走れば走るほど、ハァハァと息が上がって日頃の運動不足を痛感させられる。
これくらいの距離、小学生のマラソンと変わらない。
そういえばあの頃…って、思い出してる場合じゃない。
しぃだよ!
そんな遠くに行くわけないし、もしかしたら店に戻ってるかも。
久しぶりに痛くなった横っ腹を右手でさすりながら、もう一回、走り出す。


もうこれ以上は足が動かない。と思った時に坂を上りきって店が見えた。
『どうか、しぃがいますように…』
座り込みたい気持ちを押さえてドアを勢いよく開ける。


「なんで………」


なんでいないの?
脱力感と坂を走って来た疲労感が一気に体を襲って来る。
朝からこんなに走らせやがって。
次第に怒りの感情が頭を持ち上げる。
大体、なんで勝手にいなくなるのよ。
ご飯時には帰って来なさいっつうの。
朝も昼も夜も、一緒にご飯食べるんだから。
いつだって、あたしの側にいて。


乱れた呼吸を整えると、また店の外に出た。

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