彼は人魚姫!
『だ・か・ら。だからだよ。ママ」


「え?」


しぃの顔がゆっくり近付き、その柔らかいくちびるが、あたしの驚いて少し開いたくちびるをふさいだ。
あまりにも優しい空気に包まれていたから、何も抵抗出来なかった。


「うん。それでいい。女の子は素直が一番」


そう言って、殺人的に爽やかな笑顔を見せる。
そうだ。しぃはあたしのドストライクの顔だった。
急に恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。
そんな場合じゃないのに。


「い、言ってる意味が分かんないって。あのね、もうね、頭が変になってんのよ。話の展開が急過ぎてついて行けないっていうか、何がほんとか分からないっていうか。だから、だから、」


「だから抵抗出来なかったんだよね。分かってるって」


分かってない。
その言い方は分かってない。
あたしのこの散り散りバラバラな気持ち、分かる訳ない。
自分でも分からないんだから。
しぃにキスされてこんなにときめいて。
騙されてたのに。
しぃはほんとにあたしを好きなの?信じていいの?
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