彼は人魚姫!



~何か変わる?~


静かに寄せては返す波の音が心地いい。
耳から体の隅々まで染み渡って、疲れた細胞がゆっくりと再生されて行く気がする。
このまま、ここにずっとこうしていられたらな。
逃げ道を考えて深く息を吸って遠くを見る。


「何にも浮かばない」


嫌な事から逃げたいのは人間の本能だ。
だから仕方ない。逃げたいと思うのは卑怯じゃない。あれこれ考えて自分を正当化しようとするけど、ダメ。
明日までに答えを出さないと。
しぃは本気なんだから。
あたしの答えひとつで、しぃの明日が変わる。
あたしごときのせいで何も変わって欲しくないけど、もし変わってしまうなら逃げる事なんて出来ない。
しぃに真摯に向き合わないと。
好きだと言ってくれたんだから。
ずっと前から。
ずっと……前から。
この言葉が引っ掛かってる。
あたしが好きな人は誰?
しぃ?それとも………オーナーに惹かれてる?
ダメだ。オーナーを気にする時点でダメだ。
それは封印したはず。
『ちょっといいな』って思ったのは好きとは違う。
薫は?薫は好きだけど、好きなんだけど、『好きだった』ような気がする。
しぃが現れるまでは。
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