彼は人魚姫!
「本気だよ。こんなに夢中にさせて、責任を取って欲しいのはこっち」


固まってた体がカクカクと震えて行く。
欲しい言葉をこれ以上言わないで。


「えーと。あの、」


「なぁんて。冗談だよ。ごめんね。本気にさせちゃったかな?僕、これでも小学生の頃、役者になりたかったから。演技、上手いでしょ?」


「えっ?」


天国から地獄。
バンジージャンプで落とされた気分。
何なの?
どれがほんと?
この兄弟はあたしをどれだけ振り回すの?


「雫さんは風が好きな人だから。僕にとっては大事な店長さん。それだけだよ。ごめんね。なんか深刻な顔してたから、ちょっとからかってみた」


また優しい笑顔。
だけど。だけど。


「えっ?泣いてる?ごめん!そんなつもりじゃ……」


涙が溢れて来て止まらない。
つい、はしゃいだ自分の情けなさと、これで良かったという悲しい本心と。


「ごめんね……」


オーナーの腕があたしの肩を優しく包み込む。
そして少し力が入ったような気がした。


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