彼は人魚姫！
「あ…、私、名刺持ってなくて…」


相手に名刺を出されると渡す名刺がなくて、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。
いい大人なのに。
やっぱりあたしも作ろうかな。


女性は『連絡して頂きたくてお渡ししただけですから…』と、まるで春の日だまりのような柔らかい笑みを浮かべる。


「みさと あきほさん。で、よろしいですか？」


「あっ、すみません。名乗ってませんでした。そうです。みさと あきほです。失礼しました」


笑顔が板についている。
接客になれてるな。
でもだからって、嫌味なんてない。
綺麗な人だけど、可愛らしい感じもする。
美人って得。
何をしても絵になってるもん。
お辞儀さえ素敵。


「あぁ、いえ。ただ、なんとお読みするか聞いただけですから。あの、私は海乃 雫です」


ここは流れで名乗るしかない。


「『うみの しずくさん？綺麗な名前ですね。見た目通りの名前。では…お忙しいところをお引き留めしてすみませんでした」


この、品のある微笑みは、あたしのような生まれた時から公立育ちの人間には出来ないような気がする。
あれは、根っからのセレブのなせる技。
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