愛しい子

一歩、また一歩

次の土曜まで、ハイスピードで流れる時間。
授業なんて覚えてなくて、何をしたかさえ記憶にない。

ただ、土曜のことしか頭になかった。



そしてなんと、今日がその土曜なんです。


「……どうしよう、鬱だ」

「妊娠にはよくあることよ。感情の起伏が激しかったり、鬱になりがちなの。あとイライラもする」

ソファで座ってる私に、ココアを差し出す恵里佳さん。楽しそうにニコニコしている。

「なんで嬉しそうなんですかーひどいー」

「貴女の素敵な旦那様を見れるからね。私の昔のやつとは違って、貴女のこと本当に愛してるみたいだし」


過去のことを笑って話せる恵里佳さんを、すごく大人だと思う。強い女性だと、憧れる。



「私、将来恵里佳さんみたいになる」

「産婦人科?」

「なぜそっちに行った」


たまに抜けてるとこも可愛らしくていいです。






まだ加治が来るまでに時間があるし、しばらくは恵里佳さんと話していようかな。


「恵里佳さんは、赤ちゃんを産むの、賛成してくれたりしますか?」

ちょっとだけ希望を持って聞いてみた。


「大反対よ」


ダメでした。


「あんたの歳で出産ってね、本当に大変なのよ。そこは今実感してるでしょ?それに、命の危険もあるし」

「はい……」

「だけど、私は一度同じ体験もしてるし。大反対だけど、産むなとも言えない」


そっと私の頭を撫で、優しく微笑んでくれた。


「これは命の問題なの。だから正解も間違いもない。貴女が選んだ道なら、私もできる限り応援する」

「恵里佳さん……」


「勘違いしちゃダメよ?これは医者の仕事だからであって、本当は反対してるんだから」


優しかった微笑みは、意地悪な笑みにかわり、たれ目が全体的に幼い印象を与えた。

恵里佳さんはすごいな、強くて綺麗で可愛くて。


だけど……。

きっと、沢山辛い思いをしたんだろうな。


「恵里佳さん」

「んー?」

「恵里佳さんって、すごいね」

「えぇ、そうでしょ?」


私は恵里佳さんを尊敬する。
そして、心から恵里佳さんみたいになりたいと願った。
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