未来へのボール*WINTER*
「………。」
保健室は凄く静かで、
まるであたし以外に誰も居ないみたい。
このカーテンの向こう側には
サクト先輩が居るというのに。
「……。」
寝ようにも、寝れない…。
気になって仕方が無い。
この時間が終わるまで、あと何分だろ。
速く終わって欲しい。
………けど、終わって欲しくない。
《ギ…》
上半身だけ起こしてみた。
布と布の切れ目にあたしは手を伸ばす。
少し…少しだけ。
その姿を見ても良いですか?
そうっ…と少しだけ開けた
カーテンの隙間から見えるのは
保険医の先生が仕事をする机に
うつ伏せになった状態の後ろ姿。
……動く様子はない。
方が規則的上下している。
………寝てる?
しばらくそのまま後ろ姿を見た。
けど、体勢はまったく変わらなくて。
………寝てるのかな。
《ギシッ…》
あたしは、カーテンの隙間に
体を通らせた。
上履きをきちんと履かずに、
踵を踏んだ状態のままあたしは歩く。
ゆっくり、ゆっくり…その机の方に。
「……スー……スー……。」
あたしの手がその大きな背中に
触れることの出来る距離まで近づいた頃
小さな呼吸音が聴こえた。
もっと距離を縮めて…
先輩の顔を覗き込む様な状態になる。
「……スー……スー……スー……。」
「…………寝てる…。」
口は少しあいていて…睫毛は長くて。
腕に乗せた頬が少しだけ
目の方に押し上げられていて。
サクト先輩の寝顔は、あどけなかった。
「……スー……スー……スー……。」
………1度だけ。
その顔に触れてみたくて…
あたしは手を伸ばした。