未来へのボール*WINTER*
「……なぁ、ラル。」
「……。」
返事はしなかった。
早く、ここから出たい。
「…返事はしなくて良いから。
俺が言うことだけ、聞いてくれ。」
「……。」
やっぱり、返事はしなかった。
「俺、レムに喝入れられたんだよ。」
「……。」
「俺、ここ最近、どうすれば良いのか
分からなかったんだ。」
「……。」
あたしが返事をしないから、
先輩が1人で喋ることになる。
先輩が、
独り言を言っているみたいだった。
「それでウジウジしてたっつーか。
まぁ、良い状態では無かったんだ。」
「……。」
「けど。」
声が、少し強い。
「答えは出た。」
真っ直ぐな瞳と同じ、
真っ直ぐな声。
「簡単なことだったんだ。」
「……?」
先輩が、あたしの退部届けを持って
掲げているのは右手。
たかが紙っぺら1枚。
指2本でも持てる重さ。
なのに、先輩は左手も自身の前に掲げ、
そしてその紙を持った。
……その、瞬間。
《ビリビリビリビリビリビリ》
「お前を、辞めさせない。」
「……な………。」
次に見たのは、
真っ二つに破かれた、退部届けだった。