悪魔は人に依存する
待ちに待った念願の時には歓喜しても良さそうなのだが。
「なんだ」
“いつもと違う”。
足元が捲れる感覚は、別世界移動の時であると分かっているのに、呼び声がなかった。
アガトと呼ぶ彼女の声。水底にいようともその声さえあれば、辿り着ける導きがなく、無理矢理に手を引っ張られてしまうような。
「つぅ……!」
強引な引きに痛みを感じたのは一瞬。明るい日差しに目を細めながら。
「びっくりん、あれん?」
見慣れない部屋に、見慣れない人物を認識する。
椅子に座る男。
束ねた髪を三つ編みにした男はアガトの出現に驚いているものの、アガトは事態を呑み込んだ。
「お前が、呼んだんだろうが」