音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
(そういうことか…)

ジェイドは自分がなぜパーティーに連れ戻されたのか、その本当の意図を今のやり取りから推測していた。

最近、大臣達がジェイドの結婚相手を密かに探していることには気付いていた。

いつまでもそんな相手を作る気も探す気もなさそうなジェイドに、周りが焦り出しているのだ。

確かに、まもなく二十四歳を迎えるオスティア王国第一王位継承者であるジェイドの、最重要ともいっていい由々しき問題であるのは間違いない。

今日のパーティーにも年頃の娘を連れた貴族達が大勢参加し、令嬢達も憧れの王太子にどうにか見初められないかと期待して、競い合うように着飾っている。

そしてきっとこのエミリアが、国王であるハワードも認めた婚約者候補なのだとジェイドは思った。

名門貴族フォレスター家の娘なら、王家との婚姻に相応しいということなのだろう、と。

「そうですね。
ではレディエミリア、一曲お相手頂けますか?」

「…はい、喜んでお受けいたします」

恭しく差し伸べられたジェイドの大きな手に、うっとりとした表情のエミリアの手が重なる。

ダンスホールに二人が現れると、周りで踊っていた者達は一様に驚きの表情を浮かべ、少し離れたところから注目している。

ジェイドがダンスをするのはかなり珍しく、令嬢達は嫉妬と羨望の入り混じった視線を、エミリアに向けていた。
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