音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
「あの、ジェイド様…
今の…私の婚約者になるかもしれない、というのは…」

少し前に言ったジェイドの話が気になるのか、エミリアはジェイドの表情を窺うように見上げている。

「あぁ、それは…
今日のパーティーに君が連れて来られたことも、君と私がダンスをしたことも、きっと全て決められていたことだったのではないか、ということだよ」

「決められていたこと…?」

ジェイドの言葉を繰り返してみても、政治的なことに疎いエミリアにはその意味がよくわからない。

「…じきにわかることだ。
気にしないでくれ」

「ま、待ってください…私が…それは、私がジェイド様の婚約者になる、ということでしょうか?」

幼い頃から憧れ続けてきたジェイドの婚約者に、そんな夢のようなことが現実になるのか、エミリアは尋ねずにはいられなかった。

「…もしそうだとしたら、また近いうちに会うことになるだろう。
さっきも言ったように、これはまだ私の推測なんだ」

「は、はい…」

胸の高鳴りが抑えられないエミリアは、祈るように組んでいた手をまた強く握り締める。

そんな様子のエミリアの隣で、ジェイドはやはり冷めたような瞳で、夜空に美しく光る満月をただ静かに見上げていた。
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