音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
その後、他愛もない会話を少しして、ジェイドはエミリアを迎えの車まで送っていった。

先にパーティーを後にしていたフォレスター侯爵がこの事を聞いたら、さぞ喜ぶことだろう。

ジェイドはどんな女性に対しても、紳士的ではあっても常に素っ気ない態度しかとらない。

そのジェイドがエミリアとだけはダンスを踊り、二人きりの時間を過ごし、最後は迎えの車まで送り届けるなど、丁重に扱ったことを周りの貴族達に見せつけることができたのだ。

このまま結婚まで上手く漕ぎ着けることができれば、王家との繋がりでフォレスター家はさらに大きな力を得ることができる。

ジェイドはエミリアを乗せた車が走り去るのを見届けると、疲れをにじませたような深い息を吐いた。

王家や貴族の結婚というのは、いつの時代も常に政略結婚などあたりまえのもの。

王位を継承する者として、いつかは結婚し王家の血筋を繋いでいく。

当然のことと思っていたはずなのに、それが現実味を帯びると、ジェイドの心は揺れ始めていた。

結婚すれば、王位の継承もますます近づいてくるだろう。

「このままでいいのか…」

何か迷うことがあるのか、ジェイドは自らに問いかけるように呟いた。

その言葉は夜の闇へと消え、誰の耳にも届くことはない。
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