音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに

音楽院生の少女

「セアラー！」

オスティアの王都に広大な敷地を有する、オスティア音楽学院のキャンパス。

ピアノ科のレッスン室がある校舎から出てきたところを背後から呼び止められると、セアラは足を止めて振り返った。

腰まである柔らかな栗色の髪をふわりと揺らし、呼び止めた声の主を見つけると、大きな瞳を細めて笑顔を見せる。

「あ、エマ！」

「今、レッスン終わり？」

「うん、マチルダ先生の個人レッスン」

「今日もあいかわらず厳しかった？
この前もあの先生のレッスン室から生徒が泣きながら逃げ出してきたって、みんな噂してるよ」

「あぁ…新入生の子なんだけど、ちょっと…えっと、かなり落ち込んじゃってるみたい…」

「あ〜、マチルダ先生も容赦ないからね。
今年も立ち直れない子が続出してるわけだ」

セアラと同じオスティア音楽学院ピアノ科の学生のエマは、哀れむような表情で肩をすくめる。

ダークブラウンの髪と瞳を持つ、セアラの一番の友人であるエマも、ちょうどレッスンを終えたところなのか手には楽譜を抱えている。

「でも、ただ厳しいだけじゃないよ。
生徒一人一人と真剣に向き合ってくれてるって、レッスンを受ければわかるもの」