音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
セアラにとっても今回出場したコンクールは、かなりの意気込みで挑戦したつもりだった。

第一次、第二次と予選を通過し、ファイナルまで順調に進み、自分でもやりきったと思える演奏ができた。

なかなか鳴り止まない拍手、会場の熱気のこもった雰囲気まで、今でもしっかりと覚えている。

これがコンサートだったなら、最高の瞬間として記憶に残るものになったかもしれないけれど、コンクールはやはり順位を決めるものだ。

セアラは優勝を目指し、そしてそこには届かなかった。

しかし落ち込んでいたセアラに、マチルダは意外な言葉を掛けた。


「あなたの今日の演奏は、人の心に響く素晴らしいものだった。
今は結果にとらわれず、あなたのピアノをたくさんの人に聴いてもらうことを第一に考えて」


マチルダのレッスンを受けるようになってから、褒めてもらったことなど今までたったの一度でもなかったセアラは驚きを隠せなかった。

励まされるか、もしかすると怒られるかもしれないと思っていたところでのマチルダのこの言葉は、暗く沈んでいたセアラの心に強く残ったのだ。

一番になることだけに強くこだわり過ぎていたのかもしれないと、張りつめていたものがその瞬間、不思議と和らいだ。
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