音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
ハワードがパーティーの終わりにあるといった演奏会のために、大広間の舞台の前にはいつものように金の装飾が施された豪華な椅子がいくつか用意されていた。

数人の使用人を引き連れてハワードがジェイドと共にその席へ向かい腰を下ろすと、再びにこにこと愛想の良い人物が近づいてくる。

「陛下、今宵はあのアダム・エドワーズの演奏を拝聴できると聞き、とても楽しみにしておりました」

「おぉ、フォレスター侯爵。
待っていたよ、楽しんでいくといい」

ハワードに声を掛けたのはオスティアの名門貴族、フォレスター家の当主だ。

上流階級の者特有の、気品ある堂々とした雰囲気を纏っている。

侯爵は少し後ろを振り返ると誰かを呼び寄せ、自らの隣に並ばせたその者を嬉々として紹介し始めた。

「ご紹介します、娘のエミリアです。
エミリア、ご挨拶しなさい」

「はい。エミリア・フォレスターと申します。
陛下、お目にかかれて光栄です。
今宵はこのような素晴らしいパーティーにお招き頂き、ありがとうございます」

侯爵に促されて挨拶をしたフォレスター家の令嬢エミリアは、ドレスの裾を少し摘まんで膝を折って優雅に礼をする。

緩やかなウェーブのかかった美しいブロンドの髪が顔を上げると肩先でふわりと揺れ、澄んだ翡翠のような深緑色の瞳はまっすぐに、なぜかジェイドを見つめていた。
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