紅蓮の鬼
...side淋
宛もなく歩いていると、楓太がワタシを呼んだ。
「なんだ?」
振り返ると、楓太は腕を組んでいた。
「そういえばさ、桔梗に俺らのこと言った時、何で夫婦だー、とか言わなかったんだよ?」
そう言って彼は「地味に気になってたけど」と付け足す。
「……あー…」
楓太は不思議そうな顔をしていた。
「あれは、片方が里に身を置いておかなければ意味がない」
それに、勿忘草も渡してないし。
「…………」
彼の眉間にシワが寄る。
「てことは、淋が抜けたから俺らは夫婦じゃなくなったって訳か」
その言葉にワタシは頷く。
梔子は、そのことをまだ知らなかったのだろう。
だから同衾などと……同床でいいものを。
目を伏せて、息をつく。
「淋?」
楓太が心配そうにワタシの顔を見る。
「…………」
まぁ、そこまで重要なことでもないし。
過ぎたことだし。
(どーでも)いいか。
なんて考えて、ワタシは明後日の方を向く。
「んじゃ、淋がまた色緋の長の座に就くことが許されたのなら、俺らまた夫婦?」
楓太が確認するように言う。
「……まぁ……そうだろうな」
「ふぅん」
彼の声音は、聞いてきたのに興味がなさげだった。
「………………」
――まぁ、そんなことが起こり得るとは到底思わんがな
「……なんか……めんどくせーな…」
楓太が苦い顔をして呟いた。