紅蓮の鬼
ワタシが困惑していると、目の前の男が指を鳴らす。
「く…っ」
それが合図だったように、貫いている刃物が四方八方へ動く。
グジュリと、肉を裂く気持ち悪い音がした。
刃物がワタシの体から無くなると、再び新しく出来た傷からドクドクと血が吹き出る。
「さすが鬼は違うね」
彼は「体を貫かれても尚、立っているなんて」と、嬉しそうに顔をほころばせる。
そして傷が塞がる前に、男がワタシの体にドスッと手を入れた。
「……な…っ!!?」
目を見開く。
瞬きすらできない。
一瞬、呼吸が止まる。
――なに、を
「言ったでしょ?サンプルの採取って」
男はまるでワタシの心を読んだように、耳元で囁いた。
そして何かを掴んで、一気にワタシの体から手を引き抜く。
ブチブチィっと、千切れる音がしたような気がした。
急に力が抜けるような感覚に襲われ、ワタシは片膝をつく。
男はそれを入れ物の中に丁寧に入れ、その様子をじっと見ているワタシに振り返る。
「そんな睨まないでよ、これはちゃんと僕らの研究に役立つから」
腹を抑えて片膝をつけているワタシに、男は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、言った。
他の傷はもう塞がりかけているというのに、先ほど男がワタシの腹に手を入れた部分が中々塞がらない。