紅蓮の鬼


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それはまだ色緋がなかった頃の話。


私と藺草さんは、平凡ながらも穏やかな日々をおくっていた。


幸せだった。


彼とこうして過ごすのは。


だけど、どうも私には〝幸せ〟というものと縁がないらしい。


幼いころに父と母を亡くし、この幸せもそう長くは続かなかった。


この時は、今のように鬼という存在が実在しているのだと、再び人間に知られ始めた頃だった。


そして、人間より自己治癒力も戦闘力も遥かに高い鬼を、我が物にしようと鬼狩りが始まった頃でもあった。


確か大きな内乱をしている時。


その日は、夏にしてはひどく寒かったということを今でも覚えている。




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