紅蓮の鬼
年長ともう一人の人間が藺草さんに斬りかかったのと、若い人間が私の方に来たのはほぼ同時だった。
若い人間は私に斬り、私はかわす。
『ちっ』
藺草さんの舌打ちの音と、彼の血の匂いがした。
『藺草さん!!?』
『おっと!!!』
つい人間から気を逸らした私は、捕まってしまった。
『あんたさ、他人の心配してる場合?』
耳元で声がする。
背を取られてしまった。
『………っ……』
思いきり人間を睨む。
『あんた、綺麗な顔立ちしてんだな。俺好みだ』
こんな時に、悠然としている私も人間も腹立たしい。
『付け上がらないで』
『あ?』
人間がそう言った後、彼が私に触れているところから火がつく。
『ひ!!?』
若い人間は、叩いたり息を吹いたりするが、火は小さくなるどころか、人間を包み込んでいく。
『ヒィイィィィ!!!熱いぃい熱っあっ』
さっきまでの余裕そうな態度の欠片もなく、火だるまになって踊るように狂う姿はひどく滑稽だった。
奇声を上げて、バタバタと家の中を走り回る。
『ヒィイィィィ!!!鬼だ!鬼だぁぁあぁあ!!!』
火だるまはそう言いながら、家の外へと出ていく。
『おいで、』
藺草さんが私に手招きする。
年長ともう一人の人間は、床に倒れていた。
『藺草さん、』
『分かってる』
一つ気づいたことを伝えようとすると、彼は遮って微笑む。
『まどろっこしいな……最初から殺すなら、そうと言ってくれれば良かったのに』
彼は外の方を見ながら言い、口角を上げた。