紅蓮の鬼


――無理だ


いくら黒鬼の藺草さんでも、数が多すぎる。


外にいる人間の数がかなり増えている。


もしかしたら、死んでしまうかもしれない。


私は藺草さんの服を握る手に力を入れる。


『大丈夫』


ふ、と彼は笑う。


『欲があれば生きれるから』


〝生きたいっていう欲〟


そう言って、私の頭を撫でる。


『大丈夫』


――そんなことを言われたら


もう『はい』としか言えないじゃないですか。


私は彼の服を握る手の力を弱めた。


スッ―と、温もりが消えていく。


そして藺草さんは、火だるまが出ていった方へと足を進めた。




< 535 / 656 >

この作品をシェア

pagetop