下手くそな歌うたいの夢
少年の村

「下手くそ!」

ある小さな村で、誰かがそう叫びました。

「ごめんよ、つい今朝は気分が良くてね」

そう答えたのは小さな村の少年、リヒト。彼は鼻歌を歌いながら自らの仕事である掃除をしていました。

「黙って掃除してればいいんだよ!ったくお前の歌を聞く方の身にもなってみやがれ!」

「ごめん、ごめんよ…」

リヒトは歌が好きでした。ですが誰よりも歌が下手だったのです。この国では国王が音楽好きなこともあり、その評価には皆とても厳しく当たりました。

「おっとこんな時間だ!広場でフォルの歌が始まる。リヒト!ちゃんと掃除しとけよ!」

「うん」

フォルというのはこの村で1番の歌うたいで『妖精の囁き』と皆に称され聞くものの心を穏やかにし、幸せを与える歌い手として将来村に幸福をもたらしてくれる子だと村中から期待を集めていました。

「やっぱりすげーよフォルは!今度の大会こそうちの村で決定だな!」

「優勝したらうちの村は裕福になるぞ!」

1年に1度城で開かれる歌の大会がこの国にはありました。村1番の歌い手が揃い、国王が審査し、1番優れている歌い手の村へ多額の支援金が贈られることになっていました。この国のほとんどの村が大会で得た支援金で村の生計を経てており、順位が下がれば下がるほど村は貧しくなってしまうのが現状でした。

「噂じゃあ去年最下位だった村が潰れてしまったらしいぞ…」

「俺たちの村ももう何年も下の方だからな…女房に服も買ってやれねぇや」

「しかし今年はフォルがいる!やっと出場年齢になったんだ!優勝だって夢じゃあねぇさ!」

村のみんなは毎日のようにこの話題で盛り上がり騒いでいました。

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