危険な瞳に恋してる
 急に力の抜けた紫音から、そっと離れて。

 わたしは、しばらく寝顔をみてた。

「……本当に、年上だってコト、忘れちゃうような、寝顔だね」

 そして、とてもキレイな。

 ずっとずっと前に、男の人が口紅の宣伝で。

 ルージュをつけるCMがあったけど。

 それに、紫音、出てもおかしくないよ、きっと。

 いつか。

 寝ている間に、こっそりやってみようかな?

 なんて、ね。

 そんないたずらなんて、やらないけど。

 ……やりたくても。

 ふふふふ。




 わたし……

 ……やっぱり。

 紫音のコト。






 ……好き。

   

 わたしは、口紅のかわりに自分の唇で、紫音の唇にそっと触れた。

 と。

 その時。

 控え室の扉ををノックの音が聞こえた。

 紫音の目覚める時間まで、あと少しだ。

 わたしは、薫ちゃんが来たのだと安心して、返事をした。



 ………のに………




「失礼します」





 そう、声をかけて入って来たのは。





 まさか、こんなところで出会うとは思ってもみなかった。






 とんでもないヒトだった。




   
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