危険な瞳に恋してる
「それにしても、僕、ちっとも知らなかったよ」

 結局、あっという間に、お弁当を食べ終わり。

 満足そうに手についたソースを舐めて、あきらクンが言った。

「紫音ってさ。
 本当は、すげー器用だったんだな。
 僕は、ぼんやりしていてどんくさい村崎のイメージしかなかったけど……本当は、こんなに違ったんだ」

 あきらクンは、少し、真剣な顔をした。

「その服だって、今日初めて着た、って感じじゃない。
 多分、こっちの方が普段着なんじゃないか?
 なんで、紫音は、学校では、デキないヤツを演じてるんだよ?」

「……別に。
 演技をしている訳じゃない」

 紫音は、すっかり中身のなくなった、お弁当の箱を片付けながら、言った。

「ただ。
 ちゃんとやっている宮下には、悪いが。
 オレにとって『教師』は、あまり、魅力的な仕事じゃないだけだ」

「ふうん?
 だから、あんまり力が入らないって?
 わがままなヤツだな。
 他になりたい職業があったのか?」

「……そうだな。
 料理人にはなりたかったかな?
 出来れば、パテシェみたいに。
 甘い菓子を作りたかったな……海外に留学したりして」

 紫音が、一瞬遠い目をした。
< 169 / 313 >

この作品をシェア

pagetop