危険な瞳に恋してる
「……どうしても……
 ……由香里を……完全には忘れるコトができないんだ……」

「……紫音……」

「誓って、今。
 守屋より愛しいものは無い。
 この世にあるものも、亡いものも含めて。
 お前より大切なものはない。
 守屋は、由香里の代わりなんかじゃない。
 由香里とはまったく違うお前に、由香里の印象が重なることもない……
 だけども……」

 紫音は、空っぽの手を、強く握り締めた。

「どんなに努力しても、過去の記憶を消すコトは、できない。
 由香里を愛していたコトを、無かった事には、できないんだ」

 言って、紫音は、わたしから一歩遠ざかり………

 泣いているように、微笑んだ。

「オレは、守屋を愛し続ける資格がない。
 ……こんな中途半端な気持ちでは……
 自分の命よりも大事な守屋を……
 愛する資格なんてないんだ……」

 そして紫音は。

 涙で光る目を伏せた。

「だから……婚約は、破棄だ。
 百万は、返さなくていい……
 とても足りないとは思うが……
 慰謝料がわりにとっておいてくれ」











 
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